メンタルヘルス法務主任者資格の意義

日本医師会認定産業医、メンタルヘルス法務主任者、医学博士
東京大学先端科学技術研究センター 特任研究員
神戸理化学研究所         客員研究員
株式会社 Studio Gift Hands    代表取締役
三宅 琢

 

 産業医の職務は、職業性疾病の予防をはじめ、働く人の心身の健康の保持増進と職場環境の健全化を図ることにある。労働者の健康と安全は、結果的に事業者を守ることにもなる。最近では、これまでの法令順守に主眼を置いた「守る産業保健」のみならず、健康経営という言葉に象徴される「攻める産業保健(:企業価値を高めるための指導など)」も、産業医に要求されるようになりつつある。

 また、外資系企業の国内参入等、様々な経済・社会的な背景事情から、企業の形態が多様化している。非正規雇用者や外国人労働者も増加傾向にあり、労働者も多様化している。他方、ストレスチェックの法制度化や、障害者への合理的配慮の義務化など、不調者の就業支援や就業条件整備へ向けた法整備も進んでいる。もはや、倫理や「あうんの呼吸」ばかりで組織の求心力を保てる状況ではなくなってきているため、メンタルヘルスに関するアドバイスや種々の判定(「切り分け」)に際しても、基礎的な医学的知識だけではなく、就業規則の有効な活用法を含め、法務に関する知識が不可欠となって来ている。
 制定法の趣旨や、事件という失敗学の素材から学ぶべき点も多い。

 実際に、私自身、この数年間、医師兼メンタルヘルス法務主任者として、企業内での人事担当者向けのセミナーを多数担当して来た。その際、この講座で学んだ視点(3本の軸:疾病性、業務起因性、事例性)をもって各事例を評価し、適切な手続きと記録(手続き的理性)を実践する方法を指導することで、企業のリスクヘッジを図ることができた。
 また、企業外でこの資格を活用して人事研修会等を主催した結果、様々な規模の企業から、メンタルヘルス法務主任者としての顧問業務を依頼される機会も増え、自身の業務の拡大にも大いに貢献している。

 メンタルヘルス法務主任者の資格を習得することで得られる医学・法務的知識と体系的な指導力は、今後も生じるであろう企業における多様で流動的なメンタルヘルス関連の課題に向きあう者にとって、重要な武器となり防具にもなると確信している。
 労働者が働くことで不幸にならないためにも、この資格の取得者によって企業のメンタルヘルスが向上し、働き甲斐のある職場が増えることを、1人のメンタルヘルス法務主任者資格を持つ産業医として期待している。